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アゴの骨切り用語集

最近 ルフォーとか SSROとか セットバックとかを 患者さんの口からよく聞くようになったけど 正しく理解してもらっていないことが多いので アゴの骨切りについて ちょっと まとめてみますね

まずは

手術方法(術式)から

ルフォー

上のアゴ(上顎)を顔面骨から切り離して 移動する手術方法  フランスの外科医 Le Fort(ルフォー) が骨折のパターンから分類したのが始まり

I, II, III型の3つの骨切りパターンがあるが 美容外科でもっぱら用いるのは I型

切り離したあとの移動方向は 上下前後左右など自由自在だけど なんといっても顔の真ん中にあって唇や鼻との関係も重要なので ミリ単位で見た目の仕上がりに影響する  手術だけなら器用な外科医ならなんとかなるが デザインとなるとかなりの経験とセンスが要る

あと鼻翼の変化はかならず生じる とくに前方移動・上方移動ではかならず広がる(上方移動は変化を少なくする方法があるけど 前方移動はない   もちろんシンチングという糸を入れて固定するんだけど 防げない 残念だけど・・) 一方で 後方移動・下方移動での変化量は少ない

固定は 基本的にチタンプレートを使う

SSRO

こちらは下のアゴ(下顎)切り離して 移動する手術方法で 矢状分割骨切り術 Sagittal Split Ramus Osteotomy の略  BSRO (Bilateral Sagittal-split Ramus Osteotomy)も同じで スイスの外科医 Obwegesserが始めたとされる

多くの骨切りパターンがあるが 基本はどれもいっしょ  移動量の計画は重要だけど上顎に比べて比較的ゆるい  オトガイ神経麻痺のリスクが2~5%であるのが欠点だが さまざまな状況に対応できるすぐれた術式

固定は 基本的にチタンプレートを使うことが多いが 長いスクリューで固定することもある それぞれに利点欠点があるが プレートを使う外科医が多い

理由は 1.皮膚を切らなくてすむ 2.抜去が簡単 だから

IVRO

これも下顎を移動する術式で 早い シンプル 神経麻痺のリスクが少ない 固定用のプレートを使わずにすむ といった利点がある一方で 顎間ゴムを使わないといけないことや 使える症例が限られていることから あまり一般的ではない

分節骨切り

アゴの前方の一部を切り離して 移動する手術方法で 上顎の場合はワスムンド(wassmund)  下顎の場合はケーレ (kole) とよばれる(それぞれ外科医の名前)

通常は 左右の奥歯(第一小臼歯が多い)を1本ずつ抜歯して 前歯の部分を移動させる  このため奥歯のかみ合わせは変わらない  この術式は歯軸(歯の傾き)が平均値より大きくズレているときに適応となる

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つぎに

アゴの移動について(ここ大事です)

セットバック

骨切りしたアゴを後ろに移動すること

アドバンス

骨切りしたアゴを前に移動すること

よく患者さんに ”くち元が出てるので セットバックして欲しいんですけど 歯は抜きたくありません” と言われるんだけど たぶん術式と混同してると思う

セットバック=アゴを後ろに下げること

であって その術式は 上顎ならルフォーかワスムンド 下顎ならSSRO (IVRO)かケーレになる

だから 鼻の下がモッコリ出てて これを改善しようという場合は ルフォーかワスムンドでセットバックする ということになるんだけど  ルフォーなら抜歯をしないことがほとんどだし ワスムンドでは必ず抜歯することになる

手術方法の選択について

やり方の選択には ものすごく専門的な知識がたくさん必要になるので とても一言では説明できないし 医師の間でも意見が分かれることもある  だから納得いくまでセカンドオピニオンを聞いてまわった方がよいと思う

(ただいろんな意見を聞くと どれが自分にとってよいのかわからなくなることが多いけどね・・ まあそれだけ難しいということでもあるんだけど・・)

それでも それぞれの術式の効果はかなり違うので どのやり方を選択するのかは ほんとうに重要なんだ  まちがった選択をすると よい結果がえられないどころか かえってよくない状況になったりもする

とくに上顎の移動については ルフォーか分節かによって おなじ4mmの後方移動でもぜんぜん結果がちがってくる  だからこの二つの術式選択には 専門家でもすご〜く悩むときがあるんだ  ほんとにむつかしい

手術方法の組み合わせについて

One Jaw ワンジョー 片顎

上顎 あるいは下顎のどちらか一方だけを 移動させること  この場合はかみ合わせが変わってしまうので 歯科矯正はほとんどの場合必要になる  ただ手術の体への負担が少ないので 日帰りでの手術が可能で ダウンタイムも短いといったメリットがある

Two Jaw ツージョー 両顎

上顎と下顎の両方を 移動させること  この場合はかみ合わせを変えないこともできるので 歯科矯正はかならずしも必要でない  ただ手術侵襲が大きいので日帰りは難しく 2〜5日入院したほうが安全

例外:ワスムンドとケーレの組み合わせは ツージョーになるんだけど 侵襲が少ないので日帰り手術になります

どの術式がよいのか ということは一概にいえない  どの程度 顔を変えたいのか あるいは変えたくないのか とか 矯正の既往とか 費用ダウンタイムとか さまざまな条件を勘案して決めることがおおい

ただ上下顎いずれにしても 移動の量が10mmを超えるような計画を避けるようにする というのが肝心で つまりワンジョーで移動量が12mmになるようなときは ツージョーを選択したほうがいいということになる

最後に

アゴの骨切りは ダイナミックに変貌できるよい手術なんだけど どの術式で どれくらい移動させるかといった手術計画が ほんとうに大事!  もちろん ほとんどの外科医はセファログラム分析や三次元シミュレーションを行って 移動量の計画をたてるんだけど いくらこうした分析を行っても 最終的なバランスは手術中にしか確定できないことが多い  なぜなら唇や頬 鼻といった軟部組織の変化量は 予測できないから(かりに 骨を5mm移動させても 唇が5mm移動するわけではないんだ)

だから顔のことをわかっている外科医(できれば目とか鼻とか脂肪吸引とかもそれなりにできる医師)に 手術を任せたほうがいいと思う

くれぐれも ”中顔面が長いからルフォーをしたい” なんて短絡的に思って手術をうけないでください  口唇の長さや顔全体のバランスからデザインをしないと よい結果が得られないし  数字が短くなっても きれいになるわけではありません