クセのあるモノ
医療行為を伝授するのは、なかなかやっかいだ。
人が人に施術することなので、一通りのことでは、使い物にならない。
しかも練習ですら、刺すとか切るとか・・簡単ではない。
ただ最近は、ちょっとしたことでも、いちいちマニュアル化したり、ガイドを作ったりと、
昔に比べればずいぶんと学習しやすい環境になっていると思うのだが、意外にそうでもない。
「これが、できねぇとは・・」
「そういうときは、ちょいとこうひねれば、すぐじゃぁねぇか・・」
どうにも、コツみたいなことが分からない輩が増えているような気もする。
私が子どものころは、いちいちコツの要る、クセのあるものが身の回りにあふれていた。
便所の戸は、軽く持ち上げながら押すと、開く。
テレビのチャンネルは、ゆっくりと回しながら、数字のちょっと前で止めると、絵が写る。
風呂の床木は、端から湯を抜きながら真ん中を押し込むようにする・・けど縁が熱いから大腿が当たらないように気ぃつけ!
寒い朝は、チョークを引いて軽く3回キックした後は、チョークを戻してキック一発、エンジン始動!
今は、すべてのモノが「ちゃんと」している。
製品の「クセ」は、減って画一だ。
とても便利だ。
だから、
戸はいつもちゃんと開くので、閉じ込められて泣くこともなくなった。
チャンネルはボタンひとつでバッチリ、肝心の場面でザーザー白くなることもない。
温度設定一発で快適にお湯が張るので、アチアチとならない。
ボタンひとつできゅるる〜とかかるエンジン、信号でいちいち止めたって何の心配もないぜ。
でも・・・なぁ。
皮膚を切る時は、こっち側を引っ張らないと切れんだろう・・・
見えないんだったら座ってないで、立てばいいだろう・・・
暗かったら、ランプを入れようぜ・・・
人の体って、そもそも、すごくクセがあるんだよ。
同じ人なんて、いないんだよ。
だから、マニュアルは、役に立ったりもするけれど、
しなかったりもする。
「クセ」を見抜いて、扱えるちから、
それが、医療に大事なことのような気もする。