谷根千懇話会
谷根千懇話会に、日本医大の百束先生が呼んで下さった。
「外見の医療」と題して、私のこれまでの経験と、現在の考えについてお話させていただく。
形成外科をやっていると、外見について考えるところが多い。
その点では、美容外科とまったく同じではあるが、
やっかいなのが、保険診療という点である。
美容外科では、どんな状況にせよ、患者さんの希望に添うような外見を提供する。
もちろん自費であるから、どのようなアプローチを選択しようとも、問題はない。
一方、形成外科は、病気の状態を「健康な」状態まで治療する。
ところが、「健康な」外見が、どういう状態を指すのかが、曖昧である。
通常の社会的生活を送ることができることが、健康である・・・といわれても、
外見になんの不満もない人の方が少ない。
病気の状態といっても、誰もが目を背けるようなひどい状況の方から、
う〜〜ん、まあ、そう言われればちょっと・・・なぁ〜
ということもある。
いずれにしても、外見の病的と健康の間に
境界線を引くことは、誰もできない。
25年近く関わってきた中での、そんな個人的な悩みから、
今の考えまでをお伝えしたが、未だに結論の出ないままである。
それにしても、百束先生は、相変わらずとてもお元気で、
10年ほど前に、一度手術見学に伺った時のことを思い出した。
当時、最先端だった超薄皮弁の技を教えて頂こうと、
オペをされる先生の後ろに立って、見ていた時だった。
「百束センセ−、9号室のオペ準備ができましたぁ〜」
とナースが声をかけた。
どうやら、並列で予定をいれていらっしゃったようだ。
「おおー、わかった。あ、すがわら先生、すいませんけどね・・」
「はい、なんでしょう」
「この皮弁ですけどね、こ、こんな感じで薄くしておいてくれませんか」
と、クーパーで脂肪を取り始めた。
「あ、ああの・・・百束先生、わたし、先生のこの技を拝見しに来たんですけど・・」
「ああ、そう、でもね、大丈夫、先生ならできますよ、こんな感じだから。わかりますよね!」
オペの後も、ずいぶんと遅い時間までお酒に付き合って下さったことを、よく憶えている。