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クルーゾン症候群

頭蓋骨縫合早期癒合症を含む疾患のうち、クルーゾン症候群、アペルト(アペール)症候群について、お話したいと思います。いずれの疾患も発生率が低いため、教科書に書かれていること以外の具体的な情報共有がなされていないようで、多くの患者さんのご家族が不安を抱いていらっしゃると思います。

そこで今回は、私がこれまで80名ほどの患者さんの治療を通じて得ることのできた経験を、まとめてお話させて頂きます。

できるだけわかりやすい表現を心掛けましたが、一般の方にはやや理解しにくい内容も含まれているかもしれません。ご容赦下さい。また治療法は、一人ひとり症状の異なる患者さんにあわせることが基本ですので、ここでご紹介するものが必ずしもベストであるとか、正しいアプローチであるということではありません。治療法は、多彩な症状や年齢、家族背景や地域環境などによって選択されるものですので、担当の主治医とよくご相談になることを、お勧めします。

クルーゾン症候群の治療について
頭蓋骨縫合早期癒合症の中には、症候群と呼ばれるものが含まれていて、その中の一つにクルーゾン症候群というものがあります。これは、フランスのクルーゾン医師が最初に報告したもので、頭蓋骨および顔面骨の縫合早期癒合症です。

頭蓋骨には縫合と呼ばれる骨の成長部分があり、この縫合部分に骨ができることで頭蓋が成長に伴って拡大していきます。この縫合は顔面骨にもいくつかあって、頭蓋と同じように縫合の間に骨ができて顔面が成長していきます。

クルーゾン症候群では、頭蓋骨の縫合と顔面骨の縫合が早い年齢で成長を止めてしまいます。しかし不思議な事に、顔面骨の中でも下顎の成長は障害されません。
こうした病態から、症状は主に次の2つになります。

まず、頭蓋骨の成長が早い年齢で止まってしまうために生じる脳への影響です。脳は、3歳くらいまでとても早い速度で成長し大きくなります。もしこの期間に、脳の入れ物である頭蓋が十分に大きくなってくれないと、脳が窮屈になり常に頭蓋骨の中で圧迫を受けることになります。これが長期間続くと、脳の発育に悪い影響がでる恐れがあります。

もうひとつは、顔面の成長量が少ないことによる問題です。これにはさまざまなものがありますが、おもなものは以下の4つです。

1.まず眼球の周りにある眼窩という部分の成長が不十分なために、眼球を眼窩の中に収めきれず、眼が飛び出てきます。このためまぶたを閉じることができず、角膜が乾燥し涙が絶えず出ます。また斜視も生じます。

2.上顎の成長量が不足することにより、下顎と不調和が生じかみ合わせが悪くなり、いわゆる下顎前突の状態になります。

3.上顎の奥の部分、つまり鼻の奥の息の通りが狭くなるため、いびきや夜間の呼吸障害、無呼吸が生じます。

4.こうしたさまざまな成長不全により、顔の見た目がかなり個性的になります。

ではこれから治療について、お話します。

治療は、2つの重要な部位に分けて行います。
ひとつは頭蓋で、もう一つは顔面です。

これらを分けて行う理由は、頭蓋と顔面はそれぞれで成長のスピードが異なるためです。

まず正常の頭蓋は、出生時には大人の約70%ほどの大きさですが、1歳で83%、4歳で92%前後くらいまで成長します。
つまり頭は、からだの他の部位に比べて大きい状態で生まれて、4歳くらいまでにおおよその成長が完了してしまいます。ですからこの頃までは、いわゆる頭でっかち(4頭身くらい)の状態になっています。

一方、顔面骨の成長は、生後から18歳ころまで緩やかに成長していきます。出生時には大人の約55%ほどの大きさですが、1歳で60%、4歳で70%、16歳で95%くらいまで成長します。

つまり、頭蓋骨は4歳ころにはおおよそ成長が完了しますが、顔面骨ではそれが16歳ころになる、ということです。

まずは頭の治療から説明します。先にお話したように、頭は生後から4歳くらいまでの間で、急激に大きくなっていきます。ですから、1歳までには治療を行い、できるだけ3〜4歳程度の頭の大きさに拡大しておきます。なぜなら癒合した縫合は、手術をしたからといって正常になるわけではありません。縫合は癒合したままです。ですから手術後も成長はほとんどありませんので、それでも大丈夫なように4歳くらいの大きさを目標にするわけです。幸い4歳児の頭の大きさは、大人の90%ほどになっていますので、その後の成長がほとんどなかったとしても、問題ありません。実際、正常な4歳児の大きめの頭囲( +1SD) と、正常な18歳の小さめの頭囲( -1SD)はほとんど同じです。
でも、1歳の時に、4歳相当の頭のサイズまで拡大することができるのか、ご心配される方もいらっしゃるかもしれませんが大丈夫です。実際に拡大する量とすれば頭囲で約9cmですから、直径でいえば3cm程度です。前後左右に1cmずつも拡大すれば、十分と言えるでしょう。(頭蓋骨の治療は、症候群ではない頭蓋骨縫合早期癒合症と同じですので、こちら{2011-11-09 – いい表情が顔のすべてだ}もご参照下さい。)

さて顔面骨については、どうでしょうか。
仮に顔面の成長が遅いために、4歳で手術をするとしましょう。
この場合も手術後の成長があまり見込まれませんから、できれば15歳くらいの大きさにしておくのが望ましいのですが、実際の量でいうと眉からあご先までの 長さで3cm、奥行きでも3cmくらい必要になってきます。
ところが顔面には、まぶたや口といった動く部分がたくさんあり、これらは皮膚や筋肉の適切なバランスのもとに成り立っています。ですからこれらの動きの土台部分である顔面骨が、一気に3cmも移動すると機能がうまく働かなくなることがあります。また実際にこれだけの移動を行うことは困難なことが多く、通常は1〜2cmくらいになることがほとんどです。結果的には、8~10歳くらいの大きさになることが多いと思います。
その後は、やはり顔面の成長がほとんどありませんので、結局のところ、中学生の頃にはだんだんと顔のバランスが崩れていき、もう一度手術が必要になることも少なくありません。
こうしたことから、顔面の手術は、できれば成長がある程度進んだ12~15歳ごろに行うのがよいと言うことができます。

ただし例外が2つあります。

1つは、無呼吸がある場合です。
顔面骨が小さいことにより、気道が狭くなり、そのために夜間に無呼吸を起こすことがあります。この場合は、脳や体の成長や、場合によっては命に関わることもありますので、早い時期に顔面骨の移動を行い気道を確保する必要があります。

もう1つは、目です。
眼窩と呼ばれる目を収める骨が小さい場合、眼球突出となり、瞼を閉じることができなくなったり、斜視が生じます。そうすると角膜炎を起こすなど、視力に影響が出るおそれがありますので、眼窩を深く大きくするための顔面骨移動を行う必要が出てきます。
これらの場合は、4歳前後に手術を行いますが、先に申し上げましたように、中学生のころにはかみ合わせを中心に問題が生じてきますので、再手術が必要になることが多くなってきます。

さて、クルーゾン症候群の治療についての概要は、おわかりになりましたでしょうか。クルーゾン症候群は、多くの場合は知能の問題はありません。ですから適切な時期にきちんとした手術をお受けになって頂く事で、みなさんと変わらない生活を送っていただけると思います。

治療には、脳神経外科、形成外科、口腔外科、眼科、耳鼻科、矯正歯科、小児科、麻酔科など、多くの診療科が関わりますが、それぞれがひとりの患者さんの治療計画を共有し、協力して治療にあたる必要があります。各診療科の立場だけを主張すると、治療がうまくいかなかったり、手術の回数が増えたりすることも少なくありません。よい連携のとれたチーム医療を提供している施設で、治療を受けられることをお勧めします。

アペルト(アペール)症候群も、クルーゾン症候群とほぼ同様のアプローチですが、やや異なることもありますので、あらためてご説明したいと思います。

追記(2015/04/01)
記載者の菅原は、自治医科大学附属病院を退職しました。診察治療は後任の医師が、引き継いで行っております。

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