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サージェリーファースト

サージャリーファースト・アプローチを始めて、5年ほど経つ。

初めてそのコンセプトを聞いた時には、いささか驚いた。

そんなことして、大丈夫なの?
というのが正直なところだった。

しかし私のクラニオフェイシャル・サージャリーの師匠のお一人、台湾の Yu-Ray Chen 先生や、韓国の Sang Hoon Park 先生にいろいろと教わってから、それは確信に変わった。
治療者側の負担は増えるが、やるべきだろう、と思った。

なぜならこのアプローチは、患者さんにとってメリットの多いものだからだ。

そんなことを考えはじめて、数ヶ月後のことだった。
一人の女性がいらっしゃった。
「かみ合わせの治療を受けたいのですが、4月から就職なんです。矯正は、就職しても続けられますが、手術は今しかできないんです。」

2月のことだ。

サージェリーファースト・アプローチを適応するしかない。

このアプローチを行うにあたって、これまでの方法と異なる点が2つある。
一つは、プランニングであり、もう一つは骨切りと固定方法だ。

このアプローチでは、矯正治療により歯の位置が術後に大きく変化するため、それを見越したプランニングが要求される。
また骨切り後は顎間固定ができないため(するとかえって変位する、なぜならぜんぜん安定しない咬合位にもっていかれるから)、できるだけ強固な固定と、術前の機能的要素をできるだけ新しい環境に早く馴染ませる術式が必要となる。

1年ほど前から、こうした事態を想定して術式は変更してあったし、プレーティングのトライアルは重ねてきていた。
準備はできている。

「○○さん、実はこのアプローチは、あなたが初めてなのです。いえ、もちろん手術はたくさんやっていますので、安全にできます。問題は、このプランであなたのかみ合わせがキチンと治って、しかもチャーミングになるかどうか、そこの部分だけが未経験なのです。ただ、私はこのアプローチのエキスパートのところで、十分に情報は得てきています。このプランで、ほぼ間違いないと思います。」

患者さんは、よろしくお願いしますとだけ、言って下さった。

幸い、すべてが順調に経過し、予定通りに治療は終了した。

先日、数年ぶりにその方がいらした。
「あれから結婚したんです。手術してよかった。」
そう微笑みながら言った。幸せそうだった。

あらかじめ術後のよい咬合関係を準備して、手術後には安定した位置を確保しつつ骨癒合を待つこれまでのアプローチは、よい咬合と顔貌の改善という結果が高い確率で保証される、「まちがっていない」アプローチだ。

ただそのプロセスは、決して患者さんにとって楽なものではない。
「なんとかしてほしい」アプローチであった。

サージェリーファースト・アプローチは、そこをいくばくか改善した。
治療中の辛さを少しだけ軽くしてくれる「ちょっとうれしい」アプローチかもしれない。

医療というものは、常に変化しているし、変わっていかなくてはならない。
それは、多くの患者さんが望んでいることでもある。
より早く、より楽に、より確実に。
そういった意味で、医療者にはパラダイムシフトが常に要求されている。

変わらず安定した技術を習得しようと努力してきた外科医に、「変われ」というのはいささか酷である。
一時的とはいえ、手技が不安定になるのは不愉快なことだ。

しかし、今まで以上に患者さんの幸せな笑みを見られるのであれば、何とか乗り越えて行きたいと思う。

術後に患者さんと向き合ったときの、あのちいさな診察室での時間を、もっとよいものしたい。

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