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異国どたばた(台湾)

そういえば、これが、ドタバタの始まりだったと思う。

1991年の1月、念願だった台湾、チャングン医院の陳先生のところで、3ヶ月お世話になる予定で日本を発ったときのことだ。

留学は、3ヶ月前の10月に決まった。
その年の6月に見学に行ってから、当時のボスに、行かせて下さいっと何度か嘆願していたのだ。

外来でオペのお手伝いをしている時に、
「おまえ、年明けから、台湾いくか?」
と突然言われた。

「は、はいっ!」
「すまんが、出張扱いにはできんから、いっぺん退職だけどな、いいか」

その時は、無職なんてこと、どーでもよくて
「ぜんぜん、へーーーきです!」
と興奮した声で答えたのを憶えている。

それから、急いで手続きを始めて、あれやこれや先方の秘書のナンシーと書類を取り交わしていた。

当時の通信手段といえば、電話、ファックス、手紙の3つ。

英語が苦手だった私は、とうぜん電話でのやり取りなんてできやしない。
ひたすらファックスだった。

“こちらのアコモデーションも確保しました。では、フライトが決まったら、ご連絡ください。お迎えの車の手配をします。ナンシー”

“ありがとうございます。フライトは、1月6日の15時、桃園空港着となりました。よろしくお願い致します。ヤスシ”

これが、最後のやり取りだった。

重いスーツケースを2つ抱えて、空港に降り立った。

入国手続きを終えて、出口に向かう。

大勢のお出迎えの中から、DR SUGAWARA か、そんなプラカードを掲げた人を探す。

ん? 見落としたかな。
もう一度戻って、じっくりと探してみるが、見当たらない。

なにか道路事情で遅れているのかもしれないな。
しばらく待ってみることとした。

1時間経っても、誰も来ない。
ちょっと不安になる。

2時間待ってみたが、同じだ。

え〜〜、ファックス送ったのに〜どうしてなんだよぅ・・

携帯電話などない時代だ。

やり取りした書類の束から、病院の電話番号を見つけて、公衆電話に向かう。

掛け方もよく分からないまま、何度かダイヤルしていたら、つながった。

「ウェイ(もしもし)」
「アアア、アイウォントゥコンタクト ドクター、ユーレイチェン!」
「*$%)”#$?>(台湾語)」
「チェン、ユーレイ、ドクターチェン!!プリーズ」
「・・・・・」

ぶちっっ

交換が出たようだが、英語がだめ。
おまけに、後から知ったが、ユーレイではなく、ぃぉうれい に近い。
チェン先生など、院内には何十人もいる。

しばし座り込んでしまった。

だんだんと夕闇が迫っている。

そうだ、もう病院へ行こう。
半年前に行ってるし、行けば何とかなるだろう。

タクシーに乗り、病院の住所を見せ、向かってもらう。

一人だけど、無口になる。
独り言もでない。

病院の入り口で、降ろされた。

(今思い出すと、トムハンクスのターミナルみたいな状況だった)

受付らしきところへ向かい、例の如く、ドクターチェンプリーズ、とやってみるが全く通じない。

どうやら、受付も閉める時間のようで、面倒くさそうな顔をしている。

今から、ホテル探しか?

そんな思いが頭をよぎった時だった。

「どうしましたか?」
「・・・(え、にほんご?)」

近くにいた患者さんと思われる初老の男性が、話しかけてきた。
「あ、あの、わたし、にほんからきたもので、あの、ちぇんせんせいにあえなくて。。。」

ああ、わかりましたと言って、受付の女性に事情を説明してくれている。

ええっ、これ、ほんとですか。
台日友好関係のおかげだ、ありがたいよぅ

しばし待つこと、廊下の向こうから、チェン先生がやってきた!

「ドクタースガワラ、どうしたの、いきなり、来ちゃったの?」
「い、いえ、ふぁ、、っふぁくすが・・・」

もはや、半べそ状態だった。

恩人の男性に、お礼を言って・・・
それからのことは、ほとんど憶えていない。

その後は、ナンシーにドミトリーに連れて行ってもらい、鍵をもらって別れた。

疲れと興奮で、すこしぼーっとしていた。
スーツケースに入れてきたカップ麺を、一人で食べて、湿っぽいベッドで眠った。

今、思い返しても、ほんとドタバタだな、よくやってきたな、と思う。

しかし・・・
どたばたは、これで終わりではなかったのだ。

翌朝、病院に向かおうとドミトリーを出たが、ドアの鍵がかからない。
何度やっても、キーが回らないのだ。

困り果てて、ナンシーに電話した。
「鍵がかからなくて、出発できないんです・・」
「おかしいわね、この間、アタシがやった時は大丈夫だったけど。。わかったわ、まってて、見に行く」
「ありがとうございます、謝々」

30分ほどで、ナンシーが来る。

カチャッ

えっ! このキー、右じゃなくて、左に回すの!!?!?

うわーーー
ごめんなさいーーー
オレのバカぁーーー

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