完成度の高い手術
私が医師になったころ、術後管理といえば、それはもう複雑だった。
「ベッドアップは20度から始めて、15度パーデイだ、いいな。」
「4時間毎に、この2つの抗生剤を交互に30分間で静注だ、
あ、生食50で行ってくれよ、わかったな。」
「朝晩、イソジンの20倍希釈液250ccで洗浄、その後はアミカシン洗浄して、
ヨードホルムガーゼを入れ・・あとは・・たのむぞ。」
私は、センパイ医師の指示を漏らさないように手帳に書き込みながら、
外科医といえども術後管理がきちんとできるようになって、初めてメスを握れるんだ、
がんばろう!と思ったものだ。
しかし10年経った頃には、どうしても面倒な術後管理に馴染めなくなっていた。
もちろん自分は外科医であるし、手術が一番好きな仕事であるというのもある。
ただそれよりも、術後に患者さんが苦しそうにしているのをみるのが、
とてもイヤだったというのが強い。
とくに小さな子どもたちが、ベッド上安静や食事制限など、
不快な術後に追い打ちをかけるような処置でぐったりしているのを見るのは、
ほんとうに辛かった。
それからは、面倒な術後管理をできるだけ減らそうと、手術の完成度を高めるようにした。
その結果、術後がラクになり「治療」のレベルは上がったと思う。
手術はとてもパワフルな治療ツールなので、できればその力を最大限に発揮させるようなものに仕上げたい。
そしてそれは激しく複雑ではなく、静かで淡々としたものになるはずだ。
洗練されたマジックのように見えるにちがいない。