上手い外科医とは
ずいぶん前のこと 私がまだ医者になって10年目くらいのとき
当時の大学のボスと話ししてて,とある先生の話題になったことがあります.
「**大学の〇〇先生,手術が上手いって 周りの連中が言うんだけど 俺はたいして上手いって思わねーんだよな〜」
このときは 何のことかわからなかったのですが,それから5~6年ほどして,件の先生の手術を見る機会があって
「そっか・・・ボスの言ってたことって こういうことだったんだ」と合点がいったことを憶えています.
ある人からすれば,手術が上手いが,別の人からすれば,そこそこ,という状況をどう説明するかと言えば,それは 何をもって上手いとするかの違いだと思います.
一般的には
初級者:基礎的なことはできる
中級者:基礎的なことは的確にでき,レパートリーが増える
上級者:状況に合わせた創造的な対応ができる
のような感じだと思うのですが
たとえば板前さんなら
初級者:食材や道具の準備といくつかの仕込ができる
中級者:ほとんどの仕込は的確にでき,調理のレパートリーが増える
上級者:お客さんや地場の食材に合わせた創造的な調理ができる
外科医なら
初級者:切って縫うなどの基礎的なことはできる
中級者:基礎的なことは的確にでき,レパートリーが増える
上級者:状況に合わせた創造的な対応ができる
という感じでしょうか.
そのうえで,巷でよく上手い外科医 といわれているのは おそらく中級者と上級者の間くらい なのかな と思います.
なぜなら,そのあたりの技術は,初級者,中級者からみて分かりやすい上手さになるからです.
別の言い方をすれば 手際がよい 無駄のない動き 早い という上手さです.
たとえば 鼻の手術の歳に,肋軟骨を採取する というのは中級者の仕事レベルになります.
そして この作業を 2センチの傷から行ったとしても「スゴく上手なセンセイ」とはなりますが上級者では ありません.上級者ステージ手前に居る うまい中級者です.
なぜかと言えば それは手術の目的に直接関わない「作業」だからです.
ちなみにアメリカでは 肋軟骨の採取は,プラクティショナル・ナースと呼ばれる専門の看護師が 行います.多くの外科医は やりません.なぜなら外科医は,作業より もっと目的に直結することをやるべきと考えられているからです.
もちろん上級者は「作業」においても優れた技術を発揮しますが,もっと創造的で本質に通じる技術を持ち合わせています.
そういう意味で 私にとって上手で尊敬する外科医というのは どんな状況においても すべての要素を最大限のバランスで成立させ,毎回90点以上の「結果」を出してくる そういう外科医です.
私もそうなりたいと,いつも思っています.
なぜなら これがホントに難しいことだからです.