勝負!
ちょっと、たとえがよろしくないかもしれないが、
手術は、術野という相手に対して、術者というプレイヤーが勝負をする戦いのようなものだ。
悪性腫瘍が、臓器に固く張りついているような時、
「どうやってこいつを引きはがそうか」
「こいつの裏には、もしかしたらごっつ太い血管があって、大出血させようとする罠があるんとちがうか」
「よっしゃ、この武器(道具)を使えば、ワシの戦略どおりに事が運ぶじゃろう」
というようなことを思いながら(独り言をいいながら)やっている。
もちろん患者さんという一人の方の治療を行っているのだが、
実際の手術の現場では、癌や骨折といった具体的な事象に向き合うわけで、
「そいつ」と勝負するという感じに成らざるを得ない。
そしてその勝負には、かならず勝たなくてはならない。
だから、手術中の外科医の振る舞いを、患者さんの家族は知らない方がよいと思う。
きっとそれは、大事な「ひと」を扱う所作ではないように感じるだろう。
手術室にいる時の外科医は、「そいつ」には絶対に負けられない鬼のような勝負師になる。
そうでなければ、あんな恐ろしいことを「ひと」にできる訳がない。