Le Fort III型骨切り
骨切りのお手伝いに、K大学病院に伺う
Le Fort III型骨切りというのは、ほんとにパワフルな治療法なんだけど、なかなか修練する機会も少なくて、安全確実に行える形成外科医は、多くない。
私自身も、まだ100例に届かない程度の経験数だ。
それでも、これまでいろいろと苦労したことから得たちょっとしたコツとかがあって、それらを次の世代に繋いでいかなくてはならないと思っている。
なぜなら、この骨切りは、コワイからだ。
経験すればするほど、難しさがわかる。
きわめて困難な剥離操作、予想外の大出血、予期せぬ異常骨折など
幸いこれまで大きな合併症に至らずにすんでいるが、恐ろしい経験は、山ほどある。
実際、十数年前には、一人の患者さんが残念ながら亡くなられている。
仲のよかった同期のドクターが担当であったため、その一部始終を聞いた。
結局、彼はその不幸な出来事以降、二度と骨切りをすることはなく、自ら大学病院を去った。
治療という名の下に、患者さんにメスを入れるということが、どういうことなのかは、外科医はよくわかっている。
その勇気を継続するのは、簡単ではない。
ふっと、気持ちが萎えると、もう怖くてできなくなる。
標準化とか、確実性とかが求められる今の時代に、こんなケースバイケースで不確実な手術を、次の世代は担ってくれるのだろうかと不安になるが、仕方ない。
今回の担当医であるS先生は、自身での施術は2回目になるが、術前の完璧な準備もあって、無事問題なくやり終えた。
慎重すぎるところも、いい。
次回からは、少しだけ合理的な進め方を意識していけば、立派なクラニオフェイシャル・サージャンになると思う。
大学を去った私のような立場の者でも、そうした分野でまだお役に立てるのであれば、やらなければならないだろう。
それは、私のギフトと思っている。