愛でる
留学時代に、あるドクターのサマーハウスに遊びにいったことがある。
そこは、フィヨルドの奥のしずかな入り江の縁に立つ、ちいさなボートハウスだった。
めずらしい木製のヨットを持っていて、とても美しかった。
「メンテ、たいへんでしょう」
「まあね、でもそれがボクの楽しみだから」
と、笑いながらペレが答えた。
「ちょっと、こっちにおいでよ」
と、船着き場の横にある小さな小屋によばれた。
4畳くらいのスペースの真ん中に、作業机が置いてある。
壁には、さまざまな道具がきれいに掛けられていて、とても美しい空間だった。
「この部屋に籠もって、リペアしてるときが、サイコーの時間だよ」
とても、羨ましかった。
自分の好きなモノを、とことん愛でる、ということが。
あれから、15年。
今、私もそんな空間と時間が、得られたのかもしれない。